理系関西人の日常

理系の関西人がちょっと笑える日常を綴ります.理系っぽい事もそうじゃない事も

スマホ機種変更でつまづく~後編~

1週間後,ついに化石iPhoneを手放すXデーがやってきた.朝から気分上々,ショップへ向かう足取りも自然と軽くなる.

前回とは違う店員が担当についた.ニコニコお兄さんという感じである.同じ店員さんの方が話が速いのになあと思ったが,まあ問題無い.重要なのは私がトレジャーハンターから足を洗うことだ.さあ,速く私に最新のスマホを与えたまえ!!

「こちらの契約内容をよく読んでください」

え?それ前回やらんかったっけ?とりあえず「はい」を押しまくるだけのアレである.店員が違うせいでまたやらないとダメなのか?いや,そんなことはないはずだ.前回必要な手続きは終えているのだから.思い切って言った.

「あのぉ~,こういう手続きは前来た時にやったのですが...」

「失礼致しました!でしたらこちら確認の必要はございませんので!」

良かった良かった,面倒を避けるために勇気を出して言ってみるもんだ.

「前回手続きがお済みでしたら,引き落とし額の見積書はお持ちですか?」

忘れた….そういえば前回そんな感じの書類をもらったが,ただの確認書類だと思って引き出しにぶち込んだまま放置プレイをかましていた.でもそれを持って来いなんてあの店員は言ってなかったやないか!!!

申し訳ない気持ちと責任転嫁したい気持ちが渦巻く.

「すみません!忘れてしまいました...」

後者の気持ちを悟られないよう大げさに謝罪した.

「大丈夫ですよ,お忘れでしたらこちらのタブレットでもう一度契約内容の確認をお願いします.」

ふりだしにもどる.なんなんだこの茶番は.だが元はと言えば見積書を忘れた私が悪いのだ.またしてもタブレットの繰り出す「契約内容を理解されましたか?」に対し「はい」の応酬が続いた.第二ラウンドも私の勝利である.

「では現在お使いのiPhoneを初期化しますので,お出しいただけますか?」

これまで愛用してきたiPhone6は画面の割れなども無かったため,下取りに出すことにしたのだ.私は大事に扱ってきたiPhone6を自慢げに取り出し,店員の指示通りに初期化の項目をタップしていく.一通りの作業が終了した後,店員がSIMカードを摘出し,完全に初期化が完了した.電源を付けても,もう見慣れた待ち受け画面はそこには無い.5年以上使ったのにそれだけでもうなじみ深さを感じなかった.

長い間お疲れ様.お前,大切にしてもらえよ...

娘を嫁に出す父親ってこんな気持ちなのだろうか.ポンコツに成り下がったiPhone6でも少し寂しくなった.

だが,別れの後には出会いがあるのが世の常だ.店員が奥からピカピカの白い箱を持ってきた.あそこに新しい相棒が入っているのだ!!!

「こちらで登録の手続きをしますので,もう少々お待ちください.」

この期に及んでまだ手続きか!!よく分からんがAppleの承認みたいなのが必要らしい.なんやねんそれと言いたかったが,はやる気持ちは抑えなければならない.落ち着いて待てば良い.ネットニュースでも見るかと思ったが,そのためのスマホがもう無いと気づくのに5秒ほどかかった.手持ち無沙汰になった私はもう宙に視線を泳がせるぐらいしかやることが無かった.いきなり挙動不信感を醸し出した私に気を使ってか,店員が話しかけてきた.

「今日はお仕事お休みなんですか?」

「いや,まだ学生なんで仕事してないんです.」

出たよ.社会人と間違えられるという典型的な大学院生あるあるだ.

「そうなんですか!?25歳で学生ってずいぶん長くないですか?」

「そうですね~,大学院生なので~」

あと浪人もしたので~,とは言わなかった.聞かれてないことまで答える必要は無い.すると店員が物珍しげに私を見た.

「大学院生ってなんですか!?」

出たよ.大学院を知らない人への説明が面倒臭いという典型的な大学院生あるあるだ.もちろんあるあるの処理には慣れているのでチャチャッと説明を済ませ,無難に会話をこなした.さあ次はどんなあるあるが飛び出すんだ?いつでもかかってこい!臨戦態勢を整えた私に向かってその店員がこう言った.

「ちなみになんですけど〜....僕っていくつに見えますか?」

 

………なぜだ!!!!なぜ急に年齢当てゲームに興じなければならないのだ!!合コンじゃないんだから!!!

 

さすがに「携帯ショップ店員から年齢当てゲームを吹っ掛けられる」という大学院生あるあるは無いので,私の臨戦態勢は一気に崩れた.とりあえず

「え~どうですかねえ~」

という相槌で時間を稼ぐ.もし女性に聞かれたら大袈裟なぐらい若く答えるべきとは思うが,男性相手にはどうすれば…,若く言い過ぎるのも未熟さを突き付けているようで逆に失礼な気がする.どうしよう,Yahoo知恵袋に聞こうか?だめだ,聞くためのスマホが無い.家族に電話して聞いてみようか?だめだ,その電話が無いんだった,しっかりしろよ俺!とはいえ時間稼ぎにも限界がある.回答が遅くなるほどハードルは上がってしまう.迷った末に正直な感想を答えた.

「え~と,……33…,ぐらいですか?」

ファイナルアンサー!!!聞かれてもいないのに一人ミリオネアに興じていた.頼む…!誤差プラマイ3ぐらいであってくれ…!

「あー……,実は23なんです…」

 

 

……歳下かい!!!!!!!

 

ざん~ねんん!!!!というみのもんたの声が脳内に響いた.

やっちまったやっちまったやっちまった!10歳もサバを読んじゃうなんて!これじゃあ

「あなた老けてますねえ~」

と言ってるのと同じである.私は自分の利き年齢能力の無さを呪った.すみませんすみませんほんとすみません.受付テーブルに顔面を強打する勢いで謝罪した.

「いやあ,いいんですよ〜」

店員さんは笑っているが,どこか悲しげなのがマスク越しにも分かった.そりゃそうだろう,実年齢より 10歳も老け認定を受けるなんて私なら1週間はへこむ.

「いやあ,大人の雰囲気があるってことですよ~.マスクで分かりにくいですし~」

無い知恵から絞りだした全力のフォロー.果たして効果があったかどうかは分からないが,店員がひきつった笑顔を浮かべていたことだけ記しておく.マスクの件に至っては余計な一言だったかもしれない.「目元が特に老けてますね~」という意味の発言と捉えられる可能性もあるからだ.非常に気まずい空気になってしまった.なんでこんな思いしなきゃならないんだ.

「あっ!Appleの承認が終わったみたいです.」

助かった…,嫌な空気がこれで断ち切られた.さっさと機種変を済ませて一刻も早くこの場を去りたい.少しの解放感で頬が緩んだ私とは対照的に,店員が非常に気まずそうな顔をしている.

そんなに老け認定されたことが嫌だったのか…と思ったが,そうではなかった.

 

「あのお,非常に申し上げにくいんですが,結論から言うと,承認が下りませんでした.」

え???なんて??

時が止まった.脳内がクエスチョンマークで埋め尽くされる.

え??承認が下りない?それってどういうこと?私は口から魂が抜け出るんじゃないかというぐらいのアホ面でぽかんとしていた.

「それってどういう…」

「承認が下りないので,新しい機種をお渡しできません…」

☆オワタ\(^o^)/☆

なんでなんで??新しいのもらえないの??こんなに待たされたのに??

「新しいものはお渡しできないので,再度iPhone6をお使いになりますか…?」

既に店員は気持ちを入れ替えて次の策を考えている.なんという鉄のメンタル.

またこのiPhone6と一緒??まあでも画面は綺麗なままやから別にええか~…

――いやこいつ初期化でデータ全部消えとるやないかーい!!!アッハッハッハッハ!!

髭男爵ここにありである.何とか言ったらどうなんだいひぐち君~?

ひぐち君(自称23歳携帯ショップ店員)は機種変更ができない事実の謝罪に徹していた.

ひぐちカッター!今のは冗談でした!

なんていう展開は無い.私はワイングラスを心の中で叩き割った.

どうやらiPhone12は本体代が10万を超えるため,学生である私は分割払いの審査に通らないという事らしい.そう,父親から私へ名義を変更したのが原因だ.良く考えず名義変更したことを悔いたが,時すでに遅し.

「どうなさいますか…?」

どうなさるも何も,私にはiPhone6を再度使う選択肢しか無かった.今更違う機種にするなんて面倒臭い.

SIMカードをぶち込まれたiPhone6と5分ぶりの再会を果たした.お前,こんなすぐ戻って来るなよ…

娘が離婚で出戻ってきた父親ってこんな気持ちなのだろうか.結局この日は年齢当てゲームで失態を犯し,スマホを初期化されただけの虚しい一日となった.俺は何をやっているんだろう.

半ベソをかきながら帰宅し,すぐさま親に連絡した.このやりきれなさを誰かに吐き出さないとおかしくなりそうだ☆.すると親は

「本体代だけ現金で払ったら?」

と言った.

その手があったか!そうか,それならいけるかもしれない.本体代をローンで払おうとしたからダメだったのだ.幸い安倍晋三さんからもらった10万円は手つかずのままである.ここはひとつ,現金をバーンと窓口に叩きつけてやろうではないか.ああなんでさっき思い浮かばなかったんだろう!私はすぐに携帯ショップのひぐち君に電話し,後日現金で払うからさっきの機種を取り置きしてほしいという旨を告げた.本体代現金払いなら大丈夫らしい.良かった!!やっぱり相談するべきは親である.

その日はもう閉店間近だったため,受け取りミッションは次の日である.

 

翌日,ひぐち君がいないことを祈りながら再来店した.前回の気まずい空気を味わうのは嫌だ.幸い彼はおらず,日本語の流暢な外国人店員が担当についた.私は以前手続きを終えていることや,審査に通らなかったので現金払いに変更したいのだという経緯を説明した.彼の理解と説明はとてもスムーズで,日本人より日本語の接客がうまいと感じた.「あんたはこんなところでくすぶっている人間じゃない!!もっと世界に羽ばたいていけ!!」と思ったが,他人の人生に指図できるほど私は偉くない.

ひぐち君のように年齢当てゲームを吹っ掛けられることも無く,給付金を一気に使い果たすことで無事新しいiPhone12を手に入れた.はあ,本当に長かった…

新しい相棒をポケットにしまい,店を出た.前よりサイズが大きくなったのでポケットには違和感があるが,すぐに慣れるだろう.ぽちっと電源を入れると驚くのは画面の大きさだ.今までなんと小さい世界を見てきたのだろう.

 

新しい靴を履いた日は それだけで世界が違って見えた

これはMr.Childrenの歌詞である.

新しいiPhoneを持った日は それだけで世界が違って見えたっつーか全然違うマジでヤバイ

これは私の語彙力である.

こうしていろいろありながらも無事iPhone12を手に入れ,充電の減らなさ具合や動作スピードの速さに驚く毎日を送っている.

次もダブルスコアで機種変するならば,iPhone24が発売されるまでこいつと一緒だ.干支が一周するまで機種変できないのかと考えると,トレジャーハンターへの一歩を再度踏み出した気がする.