ニキビ格闘記
中学二年生のころからニキビに悩まされている.
奴らは本当に厄介だ.
モテるうえで最も大事な清潔感が顔面から失われるし,おまけに痒くて悪化すると痛い事もある.
しかもよりによって一番目立つ顔という部位に出来るところが腹立たしい.
幸い私は色黒かつニキビがそこまで赤くならなかったので目立つ感じではなかったが,そのせいで
「ニキビ?そんな目立たないから気にしなくていいやん♪」
という慰めコメントを今まで多数いただいた.いや違うんだ.本質はそこじゃない.痒くて痛くて気になることが問題なのだ.こいつらは確実に私の勉強の集中力をそいできやがる.負け惜しみではないがニキビが無ければ偏差値150越えでハーバード大学現役トップ合格は確実だっただろう.
確かに周りが言うようにパッと見では分からない.しかし,私が気にする限りニキビは確実にそこに存在する.
我思う,ゆえにニキビあり.
である.
真理を追い求めるデカルトのごとく,そこからいろいろな治療を試してきた.洗顔フォームはもちろんのこと,化粧水や塗り薬,根本的な食生活や睡眠の改善まで.治る可能性があることは何でも試した.この時のとりあえずやってみる精神を他のところに活かせていたら...と思う.だが結果はどれも芳しくなかった.だいたいの治療グッズは最初の数日は少し効果がありニキビは減るのだが,一週間も経つと奴らは免疫を得て再び繁殖を始める.住めば都とはこのことだ.住人はニキビ.都は私の顔面である.どうせならこんな一重の平べった顔じゃなくてパッチリ二重のイケメンの顔を都にしてほしい.そっちの方が住み心地が良さそうではないか.そうすれば世界のバランスというものもいくらか保たれるであろう.しかし私からイケメンへ遷都される気配は無く,とんぼ返りを繰り返すニキビ達を見て私は「はあ~家がやっぱり落ち着くわあ~」という旅行帰りのオカンのようなセリフを思い出していた.都に住み着くオカンに辟易した私は祈った.
神様お願いします.顔にニキビを作らないでください.せめて服で隠れる胸とかにしてくださいよお.
決して贅沢な願いではないはずだ.否定するだけじゃなくてちゃんと代替案も示してある.グループディスカッションならば満点は確実.私が神ならここまでしっかりした願いはぜひ叶えてやりたい.だが顔のニキビは一向に変化が無い.なんだよ神様コノヤロー.とふて腐れていた矢先,胸にもニキビが出始めてきた.
私の願いは後半部分だけ叶えられてしまったのだ.神は人の話を聞いていない.グループディスカッションならば最低点.
聞き上手な男はモテるとよく聞くが,そりゃそうだろう.神でさえ人の話を聞かないのだから.
神に見放された私は最低限のニキビケアだけするようになり,あとはもう大人になったら自然に治るだろうと半ば投げやりになっていた.
そして時は流れ現在,確かに思春期のときよりはマシになった.だがやはりしつこく残っており,その存在を認知するデカルト状態は続いていた.どうやったら治るんだろう.このまま一生ニキビと向き合い続けるのは嫌だよお…
来年から就職,フレッシュな社会人となるために,今のうちになんとかして治しておきたい.学生時代にしかできないことをしましょうという内定先からのメッセージを受け,何かをしないといけない衝動に駆られていた私はこう思った.
「そうだ,皮膚科,行こう.」
京都旅行と同じノリで皮膚科に行くことにした.皮膚科ではニキビ治療もやっているという話は聞いたことがあったが,命に関わる病気じゃないと思ってなんとなく行くのをためらっていた.しかし,やはりプロに見てもらうと違うかもしれないし,社会人になったら病院に行く時間は無くなるかもしれない.行くなら今しかない!!これこそ学生時代にしかできないことだ!見ていますか人事のみなさん!私ちゃんと言いつけ守ってますよ!!
私はすぐにネットで近所の皮膚科を調べ,プロフェショナルである医者なら何とかしてくれるはずだという期待を胸に,診察に臨んだ.
その皮膚科は評判が良いというだけあってかなり混んでいた.だが診察予約をネットで済ませてきた私は違う.待合室の椅子に腰かけた瞬間名前を呼ばれた.尻の接地時間は0.5秒といったところか.もし椅子が熱々の鉄板だったとしてもギリ耐えられただろう.周りで待っていた人達から何であいつ待たずに行ってんねんという刺すような視線を感じたが,それは文明の利器をうまく活用した私への尊敬の眼差しと捉えた.イッツポジティブシンキング.
診察室に入るとそこには超イケメンの皮膚科医が座っていた.待合室がおばさんばかりだったことに納得した.私が女性なら緊張してデタラメな症状を言い,間違った診断を下され虚しい結果に終わっていただろう.だが幸い私は恋に悩む美少女ではなく,平べったい顔の男だ.落ち着いてこれまでの経緯や現在の症状を説明し,マスクを外してニキビ顔を晒した.
「あー確かにポツポツとできていますねえ」
さすが医者.「そんな目立たないよ~☆気にしすぎだよお〜♪」なんて気休めは言わない.しかしその後,急に尋問するような口調でイケメン皮膚科医は言った.
「お菓子や揚げ物をたくさん食べるような食生活は送っていませんか?」
…......なめとんのか!!!
そんな基本的なニキビ対策既にやっとるっちゅうねん,てなもんである.私の怒りは一瞬で頂点に達した.沸騰石を入れなければ危険なレベルの突沸である.こちとら10年以上ニキビに悩んでいるのだ.プロ○クティブに挫折なんていう段階は中学で卒業している.ニキビ界のデカルトとしてベテランの名をほしいままにしている私にお菓子や揚げ物は控えるように,なんてのは釈迦に説法,孔子に論語.それでも治らないからこうしてプロフェッショナルを訪ねているのだ.それを分かって言っているのかアンタは?この状況をどうしようか.私は基本頑張ってますアピールが嫌いなのだが,これしかないと思い切ってこう言った.
「筋トレのために食事には人一倍気を付けています.お菓子や油ものはほとんど食べません.」
どや!!!筋トレと食事制限をしているのは事実だし,そこには適度な運動をちゃんとしてまっせというメッセージも含まれている.自身が健康体であるというこれ以上ないアピールだ.皮膚科医は真面目な顔でそうですかと答えたが,
「脳筋かよ...」
と言っているように思えた.ああそうですよ脳まで筋肉ですが何か?いっそ顔まで筋肉なら皮膚科医なんていらないのだ.だいたいあんたみたいなイケメンは筋肉なんて無くとも困らんでしょうね!!!
完全に心が荒んでいる.
問診表を見ながら皮膚科医は続けた.
「胸にもニキビがあるようですね.服を上げて見せていただけますか?」
はっ!顔だけでなく胸までもか!?良いだろういくらでも見るがいい!!これが神に見放された悲しい胸のニキビだ!!!
私は部屋干しの影響で若干生臭いシャツをまくり上げた.なんかこの人診察テキトーじゃない?もう帰ったら別の皮膚科を検索しようかという考えがよぎった矢先,皮膚科医が笑顔でこう言った.
「はいはいなるほど~,あ!筋トレの成果が出ていますねえ~」
!!!!!!!!!!!!!!!!
筋肉を...褒められた・・・?
そのセリフを受けて私はこう思っていた.
「でゅふふふふふふふふふふふふwwwwwえ?やっぱ分かりますう~?でゅふふwwwww」
さっきまでの怒りはどこへやら.嬉しさで私の顔面は一気に紅潮し,皮膚科医からは後光が指しているように見えた.
「あっ,いや…ありがとう,ございます...」
動揺を悟られないよう答えたつもりだったが,バレバレだったであろう.まさか皮膚科で筋肉を褒められるとは.私はこの時ほど
「筋肉は裏切らない」
という言葉の重みを肌で感じたことは無い.肌で感じる@皮膚科というのだからこれはもう確定である.みなさんも身近に筋トレしてる人がいたらぜひ褒めましょう.男女問わず一瞬で落とせます.
手のひらをくるりと返した私はこの皮膚科医を心から尊敬した.私の話をきちんと聞いてくれていたこの人こそが神だ.加えてこのイケメン,さぞかしモテる事だろう.その後神から食生活改善だけでは治りにくい場合があることや,市販のニキビ治療薬は逆効果のものもあるといったお告げがあり,数種類の飲み薬と塗り薬を賜った.少し面倒ではあるが,現在しっかりお告げの通りに治療を進めている.
もしこれも効果が無かったら本当に八方塞がりだという不安はあったが,いざ始めてみるとこれまでのニキビ対策と違い,明らかに成果が出ているのが分かった.やはりプロに見てもらうべきだという私の判断は間違っていなかったのだ.神によるとだいたい増えたり減ったりを繰り返しつつも徐々に減っていき,一年ほどでほとんど無くなるらしい.ちなみに現在5か月目.道のりは長いが,社会人になる前にデカルト状態を抜け出せれば良いなと思いながら通院を続けている.
ニキビに悩んでいる人には怪しい洗顔料とかをポチるのではなく,皮膚科に行くことをお勧めする.筋トレの成果を出してから行くべきなのは言うまでもない.